Blogs

新時代の研究開発(R&D)競争力の源泉となるために迫られる変革とは?
※このコンテンツは日経クロストレンド Specialからの転載です

ファシリテーター

HEART CATCH
代表取締役

西村 真里子 氏

ドリームインキュベータ(DI)

執行役員

田代 雅明 氏

電通

ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター GM
グループ・クリエーティブ・ディレクター

後藤 一臣 氏

ビジネス環境の変化が加速し、市場の未来予測が難しくなる中で、企業の研究開発(R&D)部門の課題が顕在化し始めている。社会課題の解決に必要となるR&Dのテーマは、もはや1社ではカバーしきれないほど広大だ。このため、「R&D投資の選択と集中」や「R&D部門の変革」が急務となっている。日本企業のR&Dを支援するため、R&Dのコンサルティングで実績のあるドリームインキュベータと、市場観測や未来予測に精通する電通グループがタッグを組んだ。自身もプロデューサーとして様々な企業をつなぐ西村真里子氏が、ドリームインキュベータと電通のキーパーソンに話を聞いた。

R&Dの対象範囲が拡大、「選択と集中」が急務に

西村 今日の企業のR&D部門は、どのような課題を抱えているのでしょうか。

田代 様々な課題を抱えていますが、それらの根本的な原因はR&Dの対象範囲が劇的に広がっていることにあります。例えば自動車メーカーのR&Dにしても、かつてはエンジンやシャシーといったメカニカルなテーマが中心でした。しかし最近では、それに加えてエレクトロニクスやソフトウエア、人工知能(AI)、ビッグデータの活用、さらには人の感性やヘルスケアといった領域にまで広がっています。もはや1企業ではカバーしきれないほど、R&Dの対象範囲が拡大しているのです。

そこで、いま多くの企業に求められているのが「自社のR&D部門は何をやり、何をやらないか」の線引きをすることです。競争力やオリジナリティにつながる分野にR&D投資を集中させ、それ以外のものは外部の研究機関や企業と連携する。その取捨選択が、あらゆる企業に求められています。オープンイノベーションという言葉も一般化してきました。

西村 R&Dのテーマの取捨選択に際し、自社だけでは判断が難しい場合に、御社のような第三者の支援が求められているのでしょうか。

田代 はい。R&Dで何をテーマにするべきか、どこを差別化のポイントにすべきかといった相談が急増しています。R&Dのテーマは、事業部門の現場の課題意識から出てくることが多かったのですが、近年はビジネス環境の変化が激しくなり、事業部門でも市場の先行きが読みづらくなりました。また、最近は「社会課題の解決」のような、長期的な未来ビジョンからバックキャストして考えなければ見えてこないテーマがR&Dの中でも増えつつあります。そうした点も、テーマの選定を難しくしている原因になっています。

西村 R&Dのテーマを未来ビジョンからバックキャストして考えるとき、生活者インサイトや未来予測データを強みとしている電通の支援が求められているのですね。

後藤 そうです。最近は「パーパス経営」という形で、企業の存在意義や社会価値を再定義し、事業ポートフォリオを見直す企業が増えています。R&Dも同様で、本来あるべき方向性は、その企業のパーパスやDNAから導き出されることが多いです。

未来へのフォーキャストと、未来ビジョンから見たバックキャスト。この両面によるアプローチが求められています。電通グループは「未来事業創研」を持ち、未来予測に関するデータを多数収集しているほか、生活者の実態やトレンドに関する情報を持っています。それらをフル活用し、企業の経営陣やキーパーソンの方とブレインストーミングしながら、R&Dのあるべき姿を見出すような支援を進めています。

その一方で、多彩なクリエイターを抱えていることも当社の強みです。ブレインストーミングの中で出てくる抽象的な概念を、クリエイターが言葉や絵で可視化します。これを全員で共有することで、パーパスやビジョンが明確になっていきます。

R&D部門のアセットを棚卸しし、事業化の種を見つける

西村 あらゆる企業がビジネストランスフォーメーション(BX)を実践し、未知なる領域に踏み出していかなければならない時代です。新規事業開発の面において、R&D部門の価値はどのように変化しているでしょうか。

後藤 「こんな技術を開発したが、何か新しいことに使えないか」といった相談がよく来ます。R&Dのアセットを自社だけで評価していては、どうしても単眼的になりやすく、隠れた可能性に気づきにくいと思います。社会トレンドや生活者インサイトを研究している電通の視点から見ると、意外な価値や事業化の可能性を見出せる場合が少なくありません。加えて、企業のR&Dを横断的に支援しているドリームインキュベータが評価すれば、外部との共創による価値向上や、具体的な事業化への道が見えてきます。

電通とドリームインキュベータは、企業のR&D部門が持つアセットの棚卸しを支援し、新規事業につながるアイデアやきっかけを提供しています。

田代 その一方で、「R&D部門の研究者に、良いインプットになりそうなビジネス現場を見せて欲しい」という依頼も増えています。R&Dのテーマや事業化につながる課題は、ビジネスの現場で見出されることが少なくありません。例えば、米アマゾンが汎用クラウドサービスを事業化したり、かつては航空機メーカーの仏ダッソー・アビアシオンがCADシステムを事業化したケースなどがそうです。これらの企業は自社の事業で直面している課題を解決した結果が、新たな事業にもつながりました。研究者が実際に現場に出ることで、自ら課題を探索する動きがより重要になっています。

西村 両社の協業による「R&Dトランスフォーメーション」は、企業にどのような価値をもたらすのでしょうか。

後藤 価値の根幹は、ドリームインキュベータと電通がお互いの得意技を持ち寄り、企業のR&Dを再生させることにあります。ドリームインキュベータはR&D部門のコンサルティングで実績があり、市場分析や事業分析、戦略立案に長けた企業です。そこに、電通が得意とする生活者や未来社会に関する情報をインプットし、クリエイティビティを加えることで、企業のR&D部門が持つアセットを再評価します。

田代 大きな課題設定をしないと、大きなテーマは見えてきません。しかも、そうした課題は1社だけで解決できないケースが多いですから、大きな未来像を描いて世の中に問いかけ、オープンイノベーションの仲間を集める必要があります。未来像を描く場面、コンセプトをわかりやすく可視化する場面、世の中に発信する場面などで、電通の力が必要になります。

西村 「こういう技術があります」とか、「こういう課題解決を目指します」といったメッセージを世の中に広く発信することで、それに賛同する人や企業が集まり、オープンイノベーションが実現していくのですね。見えづらいコンセプトをわかりやすいメッセージで発信できるかどうかがR&Dの価値を左右する。そんな時代だからこそ、両社が組むことの価値がいっそう高まる気がします。

日本企業のR&Dを底上げし、国際競争力につなげる

西村 両社はどのようなサービスを提供していくのでしょうか。

後藤 サービス内容は、クライアントの状況や希望によって柔軟にカスタマイズします。基本的には、次の3つがあります。

① 「R&D部門の価値再定義」
R&D部門のパーパスやビジョンを再定義し、どの方向へ進むべきかを明らかにします。

② 「R&Dテーマの探索・拡張」
電通とドリームインキュベータが持つ情報を活用し、R&Dのテーマを探す方法をアップデートします。

③ 「R&D起点の事業化支援」
R&D部門が持つアセットを棚卸しし、価値を再評価して新規事業につなげます。

R&Dの価値の再定義から事業化まで、一貫して支援する

電通としては、①でクリエイティブとコミュニケーションの力を提供します。②では、当社が得意とするトレンド情報、未来情報、生活者の情報をインプットします。③では、クリエイターが事業化を支援します。当社にはコピーライターやアートディレクターだけでなく、ユーザーインターフェースや顧客体験のデザイナー、ビジネスプロデューサー、サービスデザイナー、プロダクトデザイナーなど、多方面で活躍しているプロのクリエイターがいます。顧客サービスや顧客体験などはハンズオンで開発してしまいますし、外部のECサイトやクラウドサービスを組み合わせて迅速にサービスを立ち上げることも可能です。

田代 ドリームインキュベータも、この3つのメニューに対して電通と協力しながら独自のノウハウを提供していきます。今日のR&D部門には、事業化への具体的な成果と貢献が求められています。R&Dのアセットを、事業化にどう結びつけるか。そうした戦略立案に当社の知見を生かしていきます。

また、R&D部門が解決すべき課題は巨大化しており、1つひとつのテーマに対する投資額も高まっています。開発した成果を自社内で事業化するだけでは、投資対効果が合わないケースも出てきます。開発したアセットを広く社会に活用してもらうために、事業側と市場側の両面で評価し、海外も含む様々な事例も勘案しながら多面的に支援していきます。

ドリームインキュベータと電通の強みを生かしたソリューションがR&Dトランスフォーメーションを実現する

西村 まずはクライアント企業の成功を目指すのが第一ですが、将来的にはぜひ、日本全体の発展や競争力に寄与するような成功事例をたくさん作っていただきたいです。

田代 同感です。日本企業のR&Dは、もっと開かれたものになるべきです。その成果をビジネスに生かすと同時に、日本全体のために役立ててもらえるような支援をしていきたいと思います。

後藤 すでに複数のプロジェクトが始まっていますが、私たちの支援が終わっても、ご自身で変革を進めていけるようなスキームを提案しています。R&Dの底上げに貢献し、業界や日本全体の競争力向上につなげていきたいと思います。

西村 お話をお聞きして、私もワクワクしてきました。電通グループとドリームインキュベータの協業が、日本のR&Dを強くする原動力になることを期待しています。今日はありがとうございました。

新時代の研究開発(R&D)競争力の源泉となるために迫られる変革とは?

Contact

事例紹介や詳しい説明など、
お気軽にお問い合わせください。

Contact