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Web3が秘める可能性 社会課題を解決し、新たな時代を拓く
※このコンテンツは日経クロストレンド Specialからの転載です

ファシリテーター

HEART CATCH
代表取締役

西村 真里子 氏

電通デジタル

CXトランスフォーメーション部門
CXクリエイティブ事業部長
クリエイティブディレクター

泰良 文彦 氏

電通デジタル

執行役員
ビジネストランスフォーメーション部門長

安田 裕美子 氏

Web3やメタバースのビジネス活用が始まっている。ブロックチェーン技術が実現する全く新しい「分散型インターネット」は、旧来の「中央集権型インターネット」のルールを根底から変える可能性がある。電通や電通デジタルは多くの企業のビジネストランスフォーメーションを支援しており、Web3のビジネス活用についても詳しい。企業はWeb3をどうとらえ、いかに活用していけばよいのか。HEART CATCH代表の西村真里子氏が、最新事情に通じる2人のキーパーソンに聞いた。

Web3のビジネス活用は、2つの方向性で考える

西村 ブロックチェーン技術を前提とする分散型インターネット「Web3」の時代が到来しました。個人情報をユーザー自身が管理することが可能になり、中央集権的ではない新たなネット社会が発展するといわれています。お二人はいま、どのような取り組みをされていますか。

安田 電通や電通デジタルなどを中心に、デジタルを基点とした企業のビジネストランスフォーメーション(以下、BX)を支援する取り組みを加速させており、企業のコア事業の変革や新規事業を創出するためのコンサルティングをしています。

泰良 電通デジタルでは私を筆頭にテクノロジストやクリエイターなどを集めた専門家集団「XRラボ」を運営しています。近年はメタバースやWeb3に関する相談が非常に増えており、私たちも知見を深めているところです。

私がBXで最も重視しているのは、新しい商品やサービスが消費者の心を動かすものになっているかどうかです。消費者が「やってみたい」とか「使ってみたい」と感じるものでなければ、成功は難しいと考えます。

その観点で言えば、Web3は始まったばかり。Web3で使ってみたいサービスはまだ少ないですし、利用するにも事前の準備や手続きが煩雑で、まだユーザーの負担が大きいと感じています。

西村 Web3に関する企業の問い合わせには、どのような内容が多いのでしょうか。

安田 まずは表現の部分にメタバースを取り入れたいというお話が多いです。例えば、メタバースで仮想ショールームを作り、製品やサービスをどう魅力的に見せ、顧客体験をどう設計するかといった内容です。

私たちの役割は、Web3の優位性を具体的なビジネス活用に翻訳していくことです。Web3のビジネス活用には、主な方向性が2つあります。1つは「既存事業の深化」。もう1つは「事業のパラダイムシフトにつながる探索」です。

泰良 Web3のような新たなテクノロジーには、体験しないとわからない面が多くあります。私たちも社内の事業部会をメタバースで開いたり、DAO(Decentralized Autonomous Organization=分散型自律組織)でグループを運営したり、NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)を作るなど、自らの体験を通して確かな知見とノウハウを獲得しています。

西村 Web3を使ったビジネスの事例には、どのようなものがありますか。

泰良 2つの方向性の1つ目、「既存事業の深化」に関しては、「NFTスニーカー」があります。ブロックチェーン技術を利用した、世界に1つしかない「バーチャルスニーカー」です。これにより、スニーカーの価値は履くものからコレクションするものへと変わりつつあります。NFTで売られているスニーカーには、「スモークを出す」といった、現実ではあり得ない機能も実装されています。それを履いてメタバースへ出かけて披露するなど、新たな商品価値を提案しています。

Web3によって消費者の体験も「買う」から「コミュニティに参加し、ブランドと一緒に価値を共創する」という方向に進化しています。強いブランドほど、そうした動きは加速するでしょう。

2つ目の「事業のパラダイムシフトにつながる探索」の例としては、2023年4月にメタバース上に開校する学校「MEキャンパス」があります。メタバースのビジネスやプログラミング、3DCGなどが学べるスクールです。学生はアバターでキャンパスに通い、時間と場所を問わずに授業を受けられます。

人生100年時代になり、学びやリスキリングに関心を持つシニア層は増えています。しかし、若い人が通っている専門学校に一緒に通うとなると、抵抗を覚える人が少なくありません。メタバース上のキャンパスに自分の好きなアバター(姿)で登校できれば、年齢や性別に関係なく、キャンパスで人と交流し、楽しく学ぶことができます。これまでになかった、全く新しい学習体験が実現するわけです。

スタートアップの発想が重要、業界横断的な基盤を企業が支援

安田 社会や業界には様々な「不」、すなわちマイナス要素があります。Web3は、それを大きく変革できる可能性があります。

例えば、洋服のサイズがブランドごとに異なることは、ファッション業界の長年の課題となってきました。Web3を導入すれば、ユーザーは自身の正確なサイズを自ら管理し、セキュアな方法でブランドに開示する仕組みが作れます。これによって長年の課題は解消され、消費者は常にサイズの合った洋服を購入できるようになるわけです。

西村 成功するかどうかわからないWeb3に、企業が大きく投資することに対して、株主や投資家はどう見ているでしょうか。

安田 重要な顧客に投資する「LTV(ライフタイムバリュー)の向上」と考えれば、株主の利益にも合致すると思います。

いまや市場が縮小し、製品やサービスもあふれる中で、新たな顧客を連れてくること自体が難しくなっているわけです。ならば、すでにブランドを愛してくれている顧客の体験に投資して、ロイヤルティをさらに高め、LTVを伸ばす方向に努力することは理に適っています。その視点でWeb3をとらえれば、株主、企業、顧客のすべてにとって価値の高い取り組みが可能になります。

西村 社会や業界の課題解決となると、各社が協力して進めるような話になると思います。競合他社と競うことを考えてきた企業は、考えを変えていけるでしょうか。

安田 変えられると思います。様々な場面で、一企業だけでの課題解決が限界を迎えているからです。

例えば、昨今は各企業がモバイルアプリを提供していますが、どんなにいいアプリやデジタルサービスを作ったとしても、当然ながら他社では利用できないものが多い。ユーザーの目線からすると、都度登録したりという手間もあるし、各企業にデータを渡す必要があり、面倒な上にリスクもあります。企業側としても、自社のサービスの利便性を高めることはある程度できたとしても、根本的な顧客側の「不」を解決しているとはいいがたいのではないか、と。

そこで、例えば業界横断的な使いやすいプラットフォームやサービスがあり、そこにユーザーが自然と参加し、それを企業が支援する形を取れれば、そうした課題を解決できるでしょう。

このように従来の常識を大きく変えるのが、Web3です。Web3ベースのプラットフォームなら、「企業同士の競争」から「個々の消費者による社会課題解決を企業が支援する」という形に変わります。多くの企業にとって、参加しやすいものになると思います。

西村 その世界に行くには、何が必要でしょうか。

安田 スタートアップ的な発想が必要でしょう。業界内に長くいると、「不」は容易には解消できないと思いがちになります。「業界の『不』は本来こうだったらいいのに」と考えられる人は、業界を外部から俯瞰的に見られると同時に、Web3の特性をよく理解しているスタートアップ企業から出てくることが多いです。

スタートアップ企業は、業界企業と対立して既成概念を破壊する存在ではありません。本来の価値をユーザー視点で考えた結果として、新たな世界を提案します。ただし、小さく生むよりは大きく生み、多くのユーザーに使ってもらわないと課題解決になりません。したがって、そうしたスタートアップ企業を既存企業が支援し、「不」を解消していく形がベストだと思います。

Web3で
新たな課題解決モデルを

西村 この30年間で日本の国力は弱まり、世界への影響力が下がっているという見方があります。日本のプレゼンスを高めるような、Web3の「日本モデル」のようなものは生まれてくるでしょうか。

安田 スタートアップ企業が生み出す新たな方向性に多くの企業が協力し、業界や社会を変革していけるなら、そのプロセス自体が日本モデルとなり得るでしょう。

そのためには、Web3に長けたスタートアップ企業と、課題を抱えている大企業がスピード感を持ってつながる必要があります。そんな中で、多くの企業をつなげることを得意としてきた電通・電通デジタルは、重要な役割を果たせると考えています。我々が企業間の意思疎通を加速することで、Web3によるイノベーションを実現します。

泰良 Web3の時代になっても、「コンテンツ・イズ・キング」の原理は変わりません。最終的な価値は、コンテンツにこそあります。日本には優れたコンテンツがたくさんあります。コミックやアニメ、ゲームもそうですが、例えば、新潟県山古志村の錦鯉です。錦鯉は欧州や中国の富裕層に絶大な人気があります。

山古志村では、世界のファンにNFTを配布して「デジタル村民」になってもらうなど、錦鯉の価値を存続させるためにWeb3で村の運営を近代化しています。過疎化が進む中で、日本各地にある良いものがWeb3のコンテンツとして発信され、世界の注目を集めながら健全に維持されていく。地方創生をはじめWeb3には、ソーシャルグッドが導入された「ベターワールド」を実現していく上でも大きな可能性があると思います。

安田 いま日本が直面している少子高齢化や過疎化の問題は、やがて世界各国の課題になります。つまり、日本は世界に先行して課題に直面しているわけです。メタバースやWeb3により、人生100年時代のアクティブなシニア層の生き方を将来的に変革できれば、日本発の課題解決としてグローバルに発信できます。

日本発のモデルを考える場合には、日本が世界に先行して直面していることに着目すべきです。人生100年時代やリスキリング、ウェルビーイングなどは時代のキーワードになっていくでしょう。

西村 Web3やメタバースを活かすには、確かな理想やビジョンが必要になると感じました。「既存事業の深化」と「事業のパラダイムシフトにつながる探索」。この2つの柱で考えることで、Web3の活用がより具体的になり、課題解決のテクノロジーとして生きてくることがわかりました。今日は本当にありがとうございました。

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