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現場の最前線から見えてくる人的資本経営のヒントとは?
働く人のワクワクが会社を強くする

不安定な世界情勢や円安による調達費の急上昇、コロナ禍による働く環境の激変、少子高齢化の進行による採用難など、経営が把握すべき変数はますます多く、複雑に関係しあっている。日本中の企業が変革のジレンマにさいなまれる中で、昨今、注目される人的資本経営に代表されるように、人材についてのテーマはますます経営としての注目度が上がっている。それでも成長を目指すのが企業の本質であり、たとえ現在稼ぎ頭の事業であっても、余裕のあるうちに改革を進めなければ長期的存続は危うい。とはいえ、こうした経営の危機感から事業計画を策定しても、組織は必ずしも思い通りに動き出さない。決められたことを淡々とこなすだけでなく、高度な知見を持つ人材を育成し、経営の考えを緻密にこなし、しかも想定外の事態にも対処しなくてはならない。従業員を人件費や材料の観点からのみ理解するのではなく、利益を生み出す源泉、資本としても捉える人的資本経営の潮流の中で、人事政策にも改革が求められる。

電通のBXデザイン局が提供しているHRコンサルティングサービス「インナーアクティベーション」は、組織をあるべき方向に動かすためのプログラムだ。期初の目標設定や360度評価といった外形からだけではなく、組織を構成する人々の、まさに内側を動かすこと、つまり「ヒト起点変革」を目的に設計されている。

インナーアクティベーションは、すでに多数のヒト起点変革を成功に導いてきた実績のあるプログラムだ。そもそも電通グループは、クリエイティブの力で企業やプロジェクトの目標を消費者、ユーザーに届け、その心を動かすことで実現してきた。インナーアクティベーションは、電通グループのクリエイティブ力をHR分野にも拡大し、人の感情を動かすことと、人材・組織戦略との統合的な設計をもって、顧客企業の変革を支援・伴走している。

BXデザイン局の高橋氏は「人的資本経営では、人を資源ではなく資本として扱うと言われていますが、同じ資本でも設備と人では違います。人には感情があります。一人一人異なる感情があることが前提になるのです」という。

時代を象徴する調査がある。BXデザイン局が2022年10月に実施した大企業勤務の1,000人に聞いた調査で、居心地(給料、働きやすさなど)よりも仕事にワクワクがあることを重視する人の方が多いことが分かったのだ。日本企業は長らく給与や福利厚生といった居心地の良さを社員に提供してきたが、すでにワクワクを求めている人たちがマジョリティになっているのだ。この変化に気づいていない組織の経営リスクは高いと言わざるを得ないだろう。だが、仕事に感情を持ち込むな、とは昔からよく言われる戒めだ。会社が求めているのはプロフェッショナルであり、面白くない仕事はしたくない、苦手な上司のいる職場では働きたくないでは、組織にならない。組織を活性化するために、感情を起点にしてもいいのだろうか。

高橋氏がミドルマネジメント層とのヒアリングでしばしば耳にするのは「自分は褒められたことがなく、部下の褒め方がわからない」「自分は先輩から教育されたことがなく、部下の教育方法がわからない」といった言葉だ。ここに、特に今の若い世代とのギャップがある。若い世代は自身の成長に貪欲で「この会社は自分をどう成長させてくれるか?」という想いが強い。ミドルマネジメント層の世代がそう扱われなかったからといって「プロなのだからプロらしくしろ」と突き放してしまうと、成長実感のワクワクが味わえず、会社と従業員のエンゲージメントが低下してしまう。それでは人は資本にならず、経営の掲げる高い目標を達成し、環境の変化に対応する組織は実現できない。

従業員の感情を構造的に可視化し理解する

では、どうすれば従業員の感情を理解し、アクティベートできるのだろうか。その鍵になるのが、電通グループが培ってきた広告の手法、つまり感情を読み解き、本人すら気付いていないニーズの核心を言い当てるクリエイティブ力だ。よい広告は、分析と感情で成り立つと言われる。消費者のニーズを分析し、言葉にすらなっていない気持ちを捉えるという分析的な側面と、気持ちをつかむ適確なクリエイティブで訴求することで消費者の心を動かし、行動に結びつけるという感情的な側面の二面あるのがよい広告だとすれば、人的資本経営の手がかりになるのは、従業員の感情を分析し、感情を動かすように設計された施策になる。

電通が開発した 「VoiScope(ボイスコープ)」は、従業員調査の自由回答を読み取るダッシュボードサービスだ。YES/NO、5段階のスコアで表される選択式の設問ではなく、生々しい意見を書き込める自由回答の内容をAIが読み取り、テーマを判定し、さらにテーマごとに肯定的意見が多いか、否定的意見が多いか分類する。たとえば、「組織間の関係性」について去年の2倍の従業員が自由回答欄に意見を書いたとすれば、この1年で何かがあったと推定できる。社内だからこそ思い当たる事象があるだろうし、性・年代、事業所の所在地、部門など、他の属性と掛け合わせても深掘りすることで、感情が動いた原因を突き止められる。

「ある会社の場合、ほぼ同じ勤務条件なのに工場Aでは給与の低さを気にする意見が多く、工場Bでは給与についての言及は少ない傾向がありました。自由回答の内容を深く読み込んでいくと、ひとりの課長が見るスタッフの人数、工場で製造しているものが社会でどう役立っているかの掲示の有無などが原因だとわかってきました。自由回答には、人と組織の課題を解決するための仮説を超えたヒントが数多く潜んでいるのです。それをAIの力を借りて効率的に発見していくのがVoiScopeです」

一般的な人事制度改革のコンサルティングでは、「チームランチ会を開催したら食事費を補助する」「隣の部の人と1on1をする」といった、ある程度業界を問わずに実施できる施策がパッケージ化され、さて、御社には何が最適なのか分析しましょう、といった提案がされることもあるだろう。汎用的な施策は、選択肢を増やせるが、解決策として自社の現状にマッチしているのか、本当をいえば誰にもわからない。一方、VoiScopeでの分析は「同じ会社の他部署から得た知見ですから、解決策がうまくいく確率も高まる実感があります」と高橋氏はいう。

ワクワクを増やす、という挑戦。

ある会社の幹部は、「うちの従業員から、個性やクリエーティビティが見えないんです」と悩みを抱えていた。ところが、この会社で、全社のカルチャーシフトを推進する様々なアクションを実行することになり、全社員に、業務の日常から離れ、社員自身が自らと向き合い、自らの価値観やライフスタイルを発露してもらうポートレートの取り組みを実践したところ、それまで語られていた評判とはまるで違い、イキイキと個性豊かかつカラフルな人材像が浮かび上がってきた。従業員の眠れる個性を引き出し、会社の文化にする。その人本来の個性は発露し、認め合えることもひとつのワクワクにつながるが、さまざまなアプローチを重ねて、ワクワクを持続可能なものにできれば、どんな戦略よりその企業の強みになる。人間の感情に訴えることを長らく事業にしてきた電通だからこそ、人間の感情を徹底的に掘り下げること、そのインサイトや背景にある因果関係を捉えること、そしてあらゆる手段を通じて変化を生み出すことについては常に、貪欲に取り組めるのだ。

「変化が激しい時代だからこそ、会社はそこで働く人に生きがいを提供し、本気で挑戦できる、底力が発揮できるような環境を、会社全体でつくることが問われていると実感します」とはBXデザイン局の小柴氏。「人が相手ですから、感情や様々な背景と向き合い、信頼関係を真摯に築くことが大前提と考えています。その上で、従業員目線と、企業・経営目線で両面での持続的な成長を目指すことになります。個人の人生にとっても、企業にとっても目的意識が一致してこそ、従業員がワクワクと主体性を発揮できる状態につながりますが、それは決して簡単なことではありません。」という。

ワクワクは、人生をポジティブに過ごすための基盤にもなる。さまざまな困難や、プレッシャーがあったとしても、前向きに取り組めることや、チームで力をあわせていけるようなマインドセットを持てることが人や組織のポテンシャルを高めていくだろう。会社が仕事を通じたワクワクを提供することは心理的資本の蓄積になり、毎日が楽しく過ごせれば、従業員は仕事や組織に対するコミットメントを深める。コミットメントが深まればエンゲージメントが高まり、エンゲージメントが高まれば、組織で働く人の知見やスキルを資本とみなし、投資対象と考える「人的資本経営」の効率も高まる。

「ワクワクを高めればエンゲージメントが高まり、人的資本経営の効果を最大化する」という流れができる。仕事に対する自律性・主体性が高く、「言われなくてもやる従業員が多い組織」は、イノベーションを生み出し、持続する企業になるだろう。企業経営の俯瞰的視点とあわせて、従業員ひとりひとりの感情に向き合い、仕事にワクワクできる機会を増やすことで、個人の成長と企業の成長につなげていくことが人的資本経営の本質とするならば、電通のHRコンサルティング「インナーアクティベーション」は、はるか以前からそういった取組みのノウハウを蓄積してきた。今後の取組みにも是非ご注目いただきたい。

関連資料:INNER ACTIVATION for BX ケイパビリティ(PDF)

高橋舞
株式会社電通、BXデザイン局、グロースデザイン2部部長/ビジネスデザインディレクター

10年に電通を退職し、渡米。MBA取得や出産子育てを経て、2018年電通復帰。銀行勤務時代のシステムアナリスト経験、自動車会社勤務時代のコーポレート戦略立案経験など、豊富なビジネス現場体験を基に企業の変革をサポートしている。

小柴尊昭
株式会社電通、BXデザイン局 アクティベーションディレクター

2007年電通入社。「ヒト起点」での変革を一貫した領域として、企業改革・ブランド変革プロジェクトを担当。デザインドリブンの地域活性化プロジェクトの立ち上げ・運営他、「写真」の本質力をソリューション活用するフォトリューションを提唱。

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